JAK阻害薬とは
リウマチの患者さんではサイトカインという炎症を起こす物質がたくさん血液の中で関節の中に放出されています。
TNF-アルファや IL6などが代表的なものです。
生物学的製剤(以下、バイオ製剤)と言われる今までのリウマチの注射薬では、それぞれ一つ一つのサイトカインに働いて炎症を抑える仕組みでした。
ここ10年近くの間に開発され、近年多く使われるようになったジャック阻害剤はバイオ製剤より更に根っこの部分に効きます。
1種類だけのサイトカインではなく、多くの炎症性サイトカインを生み出す細胞の中での伝達経路をブロックします。
JAKとは
関節リウマチの患者さんの体内では、免疫細胞から誤った「炎症を起こせ」という情報をもった過剰に分泌されたサイトカイン(情報伝達を担うたんぱく質)が、炎症にかかわる細胞の受容体にくっつき細胞内に伝達され、炎症性サイトカインの産生を促しています。その細胞内の伝達を担うのがJAK(ヤヌスキナーゼ)という酵素です。
JAKという酵素は、JAK1、JAK2、JAK3、チロシンキナーゼ2(TYK2)という4種類があり、それぞれに組み合わさって受容体と結合しており、細胞核に伝達物質を送り炎症細胞を活性化させています。
細胞から生成された炎症性サイトカインが持続してしまうと、慢性的な炎症や滑膜増殖、骨破壊に進んでしまいます。
JAK阻害薬は、細胞内の情報伝達に必要な酵素JAKにくっつき情報経路の伝達を断ってしまうお薬です。「炎症を起こせ」と誤った情報が細胞に届いても伝達を遮断しているので、炎症が起こらなくなります。
JAK阻害剤の利点
JAK阻害剤の最も大きな利点を4つ挙げます。
- 飲み薬で一日一回で済むので患者さんが楽。注射などをするために毎週や毎月通院する必要がなくなる
- メトトレキサートと比較して内臓や血液の副作用がマイルドなので血液検査副作用チェックがより少なくて済む
- 即効性があり内服すると上手くいけばその日のうちに効いてくる感じがする。そのぶんキレが良いので数日飲まなかったりすると症状が悪化するのが患者さんが自分で実感できる
- 胃腸への負担はそれほど重くない
JAK阻害薬の種類
関節リウマチに用いるJAK阻害薬は、現在、5種類あります。
ゼルヤンツ(トファシチニブ)
JAK阻害薬のなかで一番最初に登場した薬です。その後オルミエントに代表される新しいタイプの薬剤が次々に発売されています。
- 製剤名
- トファシチニブクエン酸塩錠
- 薬名
- ゼルヤンツ
- 作用機序
- JAK1、JAK3の阻害
- 禁忌
- 重度の肝機能障害 グレープフルーツ
- 特徴
- IL-6阻害薬「アクテムラ」と作用が重なる T細胞に対する抑制作用 潰瘍性大腸炎にも使用
- 用量例
- 5mg 1日2回
オルミエント(バリシチニブ)
本院でもジャック阻害剤の中で最も多く処方されるお薬です。
世界的にも多く処方されており安全性や効果の実績の高いお薬です。
この薬の驚くべき点は、当初リウマチの薬として使われ始めたのが、偶然にも他の疾患を持っていた方が次々に良くなったためリウマチだけではなく他の多くの自己免疫疾患に効果が期待できることです。
現在正式に承認されている適応疾患として、日本ではコロナウイルスによる肺炎、 アトピー性皮膚炎などがあります。
また海外では円形性脱毛症への効果が確認されており、現在正式な適用承認を目的に治験中です。
私の患者さんでも、円形性脱毛症を持ったリウマチ患者さんに使用したところ、今まで治らなかった脱毛症が大幅に改善したという喜ばしい声も出てきています。
- 製剤名
- バリシチニブ錠
- 薬名
- オルミエント
- 作用機序
- JAK1とJAK2に対して高い選択性をあらわす
- 禁忌
- 重度の腎機能障害
- 特徴
- 新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による肺炎やアトピー性皮膚炎などにも使用されています。
- 用量例
- 最大量 4mg 1日1回 本院での標準投与量2mg 1日1回 中には高齢の方など1日一回1錠週3回程度に微調整している方もいらっしゃいます
スマイラフ(ペフィシチニブ)
- 一般名
- ペフィシチニブ臭化水素酸塩錠
- 薬名
- スマイラフ
- 作用機序
- JAK1、JAK2、JAK3及びチロシンキナーゼ2(TYK2)を阻害する
- 禁忌
- 重度の肝機能障害
- 用量例
- 150mg 1日1回
リンヴォック(ウパダシチニブ)
- 一般名
- ウパダシチニブ水和物錠
- 薬名
- リンヴォック
- 作用機序
- JAK1への強い阻害作用をあらわす
- 禁忌
- 重度の肝機能障害
- 特徴
- 乾癬(関節症性乾癬)やアトピー性皮膚炎などに使われる場合もあります。
- 用量例
- 15mg 1日1回
ジセレカ(フィルゴチニブ)
- 一般名
- フィルゴチニブマレイン酸塩錠
- 薬名
- ジセレカ
- 作用機序
- JAK1に対してより選択的に作用する
- 禁忌
- 腎不全、重度の肝機能障害
- 用量例
- 200mg 1日1回
本院採用のJAC阻害薬の治療費
薬剤名 2024.4 | 1割負担 | 2割負担 | 3割負担 |
---|---|---|---|
オルミエント錠2㎎ | 230円 | 460円 | 690円 |
リンヴォック錠7.5mg | 221円 | 441円 | 662円 |
ジセレカ錠100mg | 214円 | 428円 | 643円 |
バイオ製剤との違い
先にも触れてますが、バイオ製剤(生物学的製剤)はそれぞれの特定のサイトカイン(IL、INF、TNF)を標的として、細胞外でブロックして炎症を抑える主に注射薬です。
標的としていないサイトカインは細胞とくっついてしまう場合があります。
JAK阻害薬は、複数のサイトカインに作用でき、細胞にくっついても細胞内の伝達を遮断して炎症を抑える経口薬です。
どういった場合にJAK阻害薬を使用するのか
- メトトレキサートが効果不十分な場合
- 追加して投与する場合
- メトトレキサートプラスバイオ製剤で効果不十分な場合
- バイオ製剤とスイッチして使用することが多い
うまくいくとメトトレキサート減量できるケースも多く見られます。
さらにうまくいくとメトトレキサートが中止でき、なんと完全に1種類の飲み薬でリウマチをコントロールができるようになります。
薬物治療としては薬は種類が少なければ少ないほどよく、1種類の飲み薬で治療できれば理想的な状態です。
ただし日本リウマチ学会でのおすすめは以下のようになっています。
「週8mg以上のMTXを3か月以上継続してもコントロール不良のリウマチ患者」
現在のところ薬剤費がまだまだ高いお薬なので現実的には第一選択薬としてMTXにとってかわるまでは行っていませんが、将来的にはそのポテンシャルを秘めたお薬だと思います。
特に約10年後には特許が切れてジェネリック薬が続々発売されることになると思います。私の予測として、その暁にはリウマチのお薬の中心的な薬剤になるのではないでしょうか。
JAK阻害薬の注意点
免疫を抑える薬なので、生物学的製剤と同様に感染症に注意が必要です。
また、帯状疱疹に関しては、やや他のリウマチ剤より起こりやすいことがわかっています。
本院では、原則50歳以上のほぼ全員の方に帯状疱疹ワクチン(シングリックス)を接種していただいています。
JAK阻害薬の副作用予防
リウマチ患者さんのための帯状疱疹予防ワクチンについて
帯状疱疹を起こしやすいのはジャック阻害剤だけではなくて全ての抗リウマチ剤を使っている患者さんに言えることです。
したがって本院では、原則50歳以上のリウマチの患者さん全てにシングリックスのワクチン接種をおすすめしています。
ただしこれは今のところ保険が効かないため、一回2万円合計4万円かかるということが問題です。
一部の自治体、例えば愛知県名古屋市などでは補助が出ているようですが、東京含めてまだ全国的には完全に自費です。
効果は10年以上ほぼ一生近く期待できると思います。
効果と費用の比率で言えば十分に価値のあるワクチンだと思います。
私も50歳以上なので患者さんだけに勧めるのは悪いと思い受けてみました。
コロナウイルスのワクチンと同様次の日は肩が上がらなくなったりしましたが、それほどつらい副作用はありませんでした
東京リウマチクリニックでも現在500人以上の患者さんが接種を受けていますが、シングリックスを受けた後2日間発熱して相当辛いという方もいらっしゃいました。
そういった方には2回目を必ずしも受ける必要はないと話しています。
もちろん2回受けたほうが免疫効果は高いのですが、1回で終わったとしても受けないのと比べれば大きな効果があると思います。
総合的に見て帯状疱疹のシングリックスはコロナウイルスのワクチンとほぼ同レベルの副反応があると考えていただいて良いと思います。